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ハドルマガジン1月号掲載ー佐伯ブラザーズの『二人三脚』

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24対21。
パナソニックインパルスの7年ぶりのジャパンエックスボウル(JXB)制覇は、3点差の勝利だった。
「3点差の勝利というのが嬉しいです」。
インパルスのK佐伯栄太は、同じくK/Pを務める弟・眞太郎と肩を組みながら写真撮影に応じ、そう言って笑顔を見せた。
彼らにとっては、初めて一緒に戦って掴んだ社会人王者のタイトルだった。

 
  インパルス6年目の栄太は「インパルス愛は誰にも負けない自信があります」と、胸を張る。

  子供の頃からサッカーひと筋。高校時代は大阪府選抜にまでなった栄太がフットボールを始めたのは2007年。桃山学院大2年生の時だった。当時たまたまインパルスと富士通のJXBを観て、「卒業したらインパルスでプレーしたい」と、強く思うようになった。
「攻守に日本代表選手を揃えて、圧倒的に強いインパルスは本当に格好良かった。当時はその中でも活躍できるっていう根拠のない自信がありました」
  栄太はそう言って苦笑する。

  当時はまだフットボール歴1年にも満たない無名選手。自分が大学時代の有名選手がずらりと並ぶインパルスのリクルーティング対象になっていないことは、栄太自身が誰よりもよく分かっていた。

  しかし、栄太は行動した。自分のキックをビデオで撮影し、当時、インパルスを率いていた村上博一監督に送りつけたのだ。
  このビデオ送付をきっかけに、インパルスのコーチ陣に実際のパフォーマンスを観てもらう機会を得て、入社するチャンスを掴んだ。

  抜群のキック力を持つ栄太は、すぐに頭角を表した。2年目の2011年には、第4回世界選手権の日本代表候補になった。45名の最終ロースターに残ることはできなかったが、その一歩手前の60名に残った。
  昨2014年には、第5回世界選手権アジア地区予選の日本代表に選出され、日の丸を背負って戦った。

  しかし、今年7月に行われた第5回世界選手権に出場した日本代表のキッカーを務めたのは栄太ではなかった。
「自分の名前がなかったときはかなり落ち込みました。世界選手権は4年に一度ですし、年齢的にも次はないだろうと思って。自分はもう世界選手権には出られないのだな…と寂しい気持ちになりました」

  落胆した一方で、落選した理由も分かっていた。スコアリングキックやプレースキックの技術と飛距離は、自他共に認める実力を持っている一方で、パントの能力は日本代表レベルではなかった。45名という代表の限られたロースターの中では、キッカーとパンターの両方の能力を備えていることが必須だった。

  栄太に代わって日本代表のK/Pに抜擢されたのは、インパルス2年目、弟の眞太郎だった。
「眞太郎には絶対に選ばれてくれと思っていました。最後は家族として応援していました」と、栄太は言う。
  眞太郎にとって兄・栄太は、小さいころからずっと追いかけてきた目標だった。
「幼稚園からサッカーを始めたことも、立命館大学でアメフトを始めたことも、パナソニックに入社したことも。いつも兄が道を切り開いてくれました。そしていつしか兄を追い越したいと思うようになっていました」

  日本代表のスペシャリストの座を勝ち取ったことは、眞太郎にとって初めて栄太を追い越した経験だった。しかし、眞太郎の心の支えになっていたのは栄太の存在だった。
「一次選考で兄が落選した時、自分の中で『代表になりたい』という気持ちから、『自分が必ずならなければ』という気持ちに変わりました。日本代表になれた時は、兄の想いに応えられたと、正直ほっとしました」と、眞太郎は言う。

  一方で、栄太の気持ちはすぐに前を向いていた。
「僕は2部リーグの大学出身ですし、目立った活躍歴もない。日本代表に選ばれるのも社会人になってから5年かかりました。でも、振り返ってみると、社会人になって毎年ステップアップしている。もしかしたら僕の世界選手権は4年後かもしれないし、8年後かもしれない。そう考えるようになりました。それに、世界選手権の代表は逃したとしても、スコアリングキッカーとしては日本で一番だという自信があります。だから得意なことはこの先も前向きにどんどん伸ばしていこう。また成長しようと思いました」

  一般的に見れば、同じチームでプレーする二人は、ポジションを争うライバル関係に見えるかもしれない。しかし、栄太に言わせれば日本一のスペシャルチームを作り上げるための良き相棒だという。
「お互いの長所を分かっているので、弟と同じチームでプレーできるのは本当に心強いです。眞太郎がパナソニックに入ったのも、眞太郎と一緒に日本一になりたいから僕が誘ったんですよ」

  今季のインパルスではFGやTFPなどのスコアリングキックは栄太が担い、陣地を挽回するパントとキックオフのキックを眞太郎が担当した。互いの長所を生かして、インパルスのスペシャルチームを共に支えてきた。


  JXBでは、栄太は第3Qに35ヤードのFGを決めて富士通から一時リードを奪い、弟はパントとキックオフで爆発力のある富士通に常に自陣からの攻撃を強いることに成功した。

  QB高田がニーダウンし、勝利を確信した時、サイドラインには子どものように顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる栄太の姿があった。眞太郎は笑いながら兄の背中を叩いてなだめていた。
「憧れの舞台で、しかも初めて観たJXBと同じ富士通を相手に勝ち取った日本一。本当に感無量でした。あんなに涙が出てきたのには、自分でもびっくりしました」
  栄太にとっては初めての嬉し泣きだった。

「兄が泣くのを初めてみました」
  眞太郎は兄の涙に、大舞台で活躍して勝ちたいという、兄の心にいつもあった想いを汲みとっていた。
「陣地挽回では完璧な仕事ができたと思います」と、胸を張った眞太郎だが、結果的に3点差となる重要なFGを決めた栄太のパフォーマンスに「まだまだ、自分は兄を越えられていないと思いました。自分のFGで勝たせることができるキッカーになりたい」と、素直に思ったという。

「ここからまた、二人で日本一のスペシャルチームを作っていこう」
  インパルスの攻守をつなぎ合わせる『佐伯ブラザーズ』の戦いは、1月3日、ライスボウルまで続く。

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アメフト専門の電子書籍「ハドルマガジン1月号」
『私だけのジャパンエックスボウル』
文:小西綾子 構成:上村弘文

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